かえって(却って*反って)
例文)
①運動のしすぎはかえって健康を損なう。
②宴会の料理は自分で作ると仕出しを頼むよりかえって高くつくことがある。
③(病気見舞いの品をもらって)たいしたことありませんのに、お気を使わせてかえって申し訳ございません。
「解説」
予想される結果に反する結果になる様子を表す。プラスマイナスイメージはない。述語にかかる修飾語として用いられる。①は「運動をすると健康になること」、②は「自分で作ると安くあがること」、③は「たいした病気ではないから心配する必要がないこと」が予想される結果である。③は特に日常会話において、金品を受け取ったお礼として用いられる挨拶で、相手が自分に対して気を使う必要のない地位の人物であることを表明する表現になっている。「かえって」は例のように、好ましい結果を予想(期待)して行為を行ったら実際には好ましくない結果になったという場合に用いられることが多いが、この反対も皆無ではない。
例)医者に酒をやめろと言われたが、毎日ビールを飲んでいたらかえって胃腸の調子がよくなった。
予想される結果に反する結果になったことについて、特定の感情は暗示されておらず、予想と実際の結果のどちらが話者にとって好ましいかについては言及しない。
「かえって」は「むしろ」にやや似ているが、「むしろ」は前件と後件を比較して後件を選択するというニュアンスで、予想に反する結果になる暗示はない。
用例)
先生は学者というよりはかえって教育家だ。(X)
→先生は学者というよりはむしろ教育家だ。(O)
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むしろ(寧ろ)
例文)
①あの大臣は政治家というよりはむしろ政治屋だ。
②美佐子は家で猫を十五匹飼っている。というよりむしろ猫の家に美佐子が居候しているようなものだ。
③あんな奴と仲直りするくらいならむしろ死んだほうがましだ。
④六月は梅雨で最高気温が上がらず、温度だけからいえばむしろ五月のほうが暑いくらいだ。
⑤「この洋服、どう? 胸にブローチでもつけようかしら」「いや、むしろ何もないほうがいいね」
⑥休みの日はむしろ家でゆっくりしたい。
⑦(一極集中論議)国会なんかがむしろ地方に行ったほうが、むしろ実際の効果は大きいんじゃないかなんて、むしろそう思うんですよ。
「解説」
前件と後件を比較して後件を選択する様子を表す。プラスマイナスイメージはない。判断を表す述語にかかる修飾語として用いられる。①②は「□□というより(は)むしろ△△だ」の形で□□と△△を比較して△△を選択する様子を表す。③は「□□するくらいなら死んだほうがましだ」の形で、「死ぬ」という最悪の結果のほうがまだ好ましいという判断を表し、結果として絶対に□□したくないという話者の意志を表す。⑤は相手の判断を前件とし、それを否定して自分の判断を述べる場合である。正面から反対するのではなく、選択肢として自分の意見を述べるニュアンスで、冷静さの暗示がある。⑥は前件(外出すること)を省略する場合である。⑦は日常会話で間投詞として用いられる現代語用法。さまざまの対象を比較して判断を下している話者の冷静さと客観的な態度、さらに独断を下して人間関係が孤立することへの恐れが暗示されている。
「むしろ」は「かえって」や「いっそ」に似ているが、「かえって」は予想される結果に反する結果になるというニュアンスで、選択の暗示はない。「いっそ」は敢えて極端な状況を選択するというニュアンスがある。
用例)
*あの大臣は政治家というよりはかえって政治屋だ。(X)
*休みの日はいっそ家でゆっくりしたい。(X)
*むしろアクセサリーはつけないほうがいい。(つけるよりもつけないほうが素敵だから)
*かえってアクセサリーはつけないほうがいい。(つけると逆効果になるから)
*いっそアクセサリーはつけないほうがいい。(思い切って取ってみたらよくなると思う。)
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いっそ*いっそのこと
例文)
①治療で苦しむのならいっそ楽になりたい。
②飼い犬の世話もろくにしないのなら、いっそ飼わないほうがいい。
③(故郷の母親に)そんなに息子さんが心配なら、いっそのこと上京して同居させてもらったらどうですか。
「解説」
敢えて極端な状況を選択する様子を表す。ややマイナスイメージの語。日常会話でよく用いられ、かたい文章にはあまり登場しない。「いっそのこと」は「いっそ」を強調した表現である。極端な状況を選ぶに至った理由が明示されることが多い。①は「治療で苦しむこと」、②は「飼い犬の世話をきちんとしないこと」、③は「息子のことが非常に心配であること」がその理由である。選択する極端な状況は、好ましい場合(③)も好ましくない場合(①②)もあるが、それらを選択するに際して自暴自棄的な決断の暗示がある。
「いっそ」は「むしろ」に似ているが、「むしろ」は冷静な判断に基づいて比較したうえで選択を行う暗示があり、選択される対象は極端な状況とは限らない。
用例)
私は春よりもいっそ秋が好きです。(X)
→私は春よりもむしろ秋が好きです。(O)
資料提供
『現代副詞用法辞典』
著者:飛田 良文(Hida Yoshifumi) 浅田 秀子(Asada Hideko)
発行:語文学社