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작성자EXTRA|작성시간23.02.09|조회수337 목록 댓글 1

 

タイトル:【虐】 ジェットの恐怖ファイル:ジェットの恐怖.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:600 レス数:6
初投稿日時:2022/12/11-09:15:29修正日時:2022/12/11-09:15:29修正
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ふたば航空 漏善空港発 「」空港行き XYZ便では、いつも通り機内に積み込む荷物を搬入していた。
大量のスーツケースが並ぶ列とは別に、5つのケージが並んでいた。
ペット輸送用のケージだ。
飼い実装であるミドリは、仔のテチと共にケージに入って搭乗を待っていた。

搭乗といっても、入るのはペット専用の貨物室だ。気温や湿度は人間の客室と同じように調整されるが、
照明は着陸時以外につくことはなく、飛行中はひたすら眠ることを強制される。
ミドリたちは飼い主から眠くなる成分の入った実装フードを渡されており、飛行機が飛んだら食べるように言われていた。

「ママ、これが"ひこうき"テチ?」
テチは玩具替わりのハンカチを持ち、ミドリに尋ねる。
「そうデスゥ。ママも乗るのは初めてデスゥ」
「うしろからも実装石の声がするテチ。ワタシたち以外にも実装石が乗るテチ?」

たしかに、後ろのケージから成体実装と仔実装の話声が聞こえる。自分たちと同じ親仔だろうか。
「その様子デスゥ。でも、飛行機が飛んだらすぐに実装フードを食べて眠るデスゥ
 よその実装石とお喋りをしていてはダメデスゥ。」
「テチィ」
テチは分かっているのか分かっていないのか分からない感じの答え方をする。

ガチャン
ガシャン
ウィーン

ペット用のケージが次々と載せられていき、ハッチが閉められた。
貨物室の中は既に真っ暗闇だ。そんな中、テチがミドリに話しかける。
「ママ、このあとひこうきは空を飛ぶテチ?」
「そのはずデスゥ。でもこうも真っ暗じゃ飛んでるのかどうか、よくわからんデスゥ。
 ご主人様は飛んだら分かるといっていたデスゥ」

そのとき、隣のケージから仔実装の声が聞こえた。
「お隣さんも旅行テチ?」

質問してきたのはミドリ・テチ親仔の隣のケージにいる仔実装であった。
テチは友達ができるのではと思い、そちらに顔を向ける。
だが、ケージの出入口は施錠された金網があるので、真横のケージの中を見ることはできない。
それでもテチは隣に向かって答えた。
「ワタシたちはご主人様のお引越しについていくテチ」

「お引越しテチ!それはすごいテチ!」
どうやら隣のケージには仔実装が2匹いるらしい。先程の仔実装とは別の仔実装の声が聞こえた。
ミドリが会話に入る。
「お隣に迷惑をかけてはいけないデスゥ。お喋りはそのくらいにするデスゥ」
隣のケージの親実装も自らの仔たちに話しかける。
「よその実装石に迷惑をかけてはいけないデスゥ」

だが、テチと隣のケージの仔実装たちは同世代の友達が珍しいのか、会話を続ける。
いつの間にかそれぞれ自己紹介までしていた。隣のケージの仔実装は姉がグリュ、妹がリンというらしい。
ミドリが仕方ないという顔をしつつ隣のケージに話しかける。
「ワタシはミドリというデスゥ。うちの仔が迷惑かけてすまないデスゥ」
隣のケージの親実装も答える。
「ワタシはグリーンデスゥ。こちらこそすまないデスゥ。グリュ、リン、向こうに着いたらお説教デスゥ」

こうして、それぞれケージに入ったミドリ-テチ親仔と、グリーン-グリュ・リン親仔を乗せた飛行機は
タキシングを開始し、滑走路に入った。そしてけたたましいエンジン音と共に、離陸・上昇していった。
ミドリたちもこの「異変」が飛行機が飛んだ合図だと気付いた。
「さぁ、実装フードを食べて眠るデスゥ」

==============================


その時だった。
突然、何の前触れもなく、大きな振動がミドリたちを襲った。
すさまじい揺れだった。ケージは揺れ、体が浮き、ミドリは頭をケージの天井にぶつけ、床に叩きつけられた。
ケージは機内に固定されていたレールから外れ、貨物室の中を転がる。

ミドリはパニックになりながらも、本能的にテチを抱きしめていた。
「テチャアアアアアア!」
テチが叫ぶ。

お隣のグリーン一家も同様であった。
「デゲエエエエ、何デスゥ、世界が揺れてるデスゥ!」
「ママー怖いテチィ!」「ママー離れちゃイヤテチィ!」

そのとき、ミドリは見た。
ケージが転がっていく中、ケージの入り口を施錠していた金網が外れたのだ。
外れた金網は暗闇に消えていった。

飛行機は上昇中に乱気流に巻き込まれ、エアポケットとも形容できるような凄まじい揺れに襲われたのだ。
幸い、人間の乗客は皆シートベルトを締めていたのでけが人はいなかったが、ミドリたちのいるペット用貨物室では
尋常ならざる揺れに状況が一変していた。

揺れが収まると、貨物室の床を転がっていたケージからミドリとテチは顔を出した。
貨物室の中は真っ暗で周りがよく見えない。辛うじて見えるのは、金網が外れたケージがいくつか床に散乱している様子だ。
そんな中、辛うじてグリーン一家の姿が見えた。グリーン一家のケージも金網が吹き飛んだらしく、ケージから出て辺りの様子を探っている。

ミドリは胸元に抱きしめているテチに話しかける。
「テチ、大丈夫デスゥ?」
「怖かったテチ。でも怪我はないテチ。どこも痛くないテチ」

グリーンも仔の安全を確かめる。
「おまえたち、大丈夫デスゥ?」
「怖かったテチ。でも大丈夫テチ」「びっくりしたテチ、怪我はないテチ」

ミドリ一家とグリーン一家は暗闇の中、辛うじて見えるお互いを見つめ合った。
ミドリが話しかける。
「一体何が起きたデスゥ?」
グリーンが答える。
「分からないデスゥ。でもケージの入り口の金網が外れてしまったデスゥ。
 実装フードもどこかにいってしまったデスゥ。これでは眠りにつけないデスゥ」

ミドリは思った。
たしかに、実装フードはどこかに行ってしまった。暗くてどこにあるのかも分からない。
ケージも床に転がってしまっていて、果たして使い物になるのか、分からない。

==============================


「デーっス、何事デスゥ・・・」

ミドリでもグリーンでもない成体実装の声が聞こえた。ミドリ一家、グリーン一家は辺りを見渡す。
暗くてよく分からないが、でっぷりと太った成体実装が1匹、すぐ近くにいるようだ。
どうやら声の主はこの太った成体実装で、ミドリ、グリーンたちとは別のケージに入っていて、先の揺れでケージから出てきたらしい。
「あなたは誰デスゥ?」

グリーンの問いかけに太った成体実装が答えた。
「ワタシはエメラルドデスゥ。ワタシの飼い主はファーストクラスデスゥ。
 お前らのようなちんけな飼い実装とは違うデスゥ気安く話しかけるなデスゥ。」
「ゲフーッ」

答えて早々、エメラルドは大きなゲップをした。
(く、くさいテチィ~)
テチは鼻を抑える。エメラルドは離陸後の睡眠導入に眠り薬実装フードではなく、ワインを飲んでいたのだ。

「まったく、何事デスゥ。せっかくクソ飼い主がよこしたワインと生ハムを楽しんでいたところでこれデスゥ。
 真っ暗で何も見えんデスゥ。ワタシのように高貴な飼い実装にふさわしくない場所デスゥ。
 まったく、あのクソ飼い主ときたらロケーションもまともに選べないとはホントに使えないやつデスゥ」

ミドリがグリーン一家に話しかける。
「と、とにかく、皆、眠って目的地の「」に着くのを待つ必要があるデスゥ。
 家族ごとに分かれて、どこか眠れそうな場所を探すデスゥ」

「そ、そうデスゥ。そうするデスゥ。早く眠るデスゥ」
グリーンも慌てて頷きながら、仔2匹を連れて辺りを見渡す。

ミドリ一家もグリーン一家も、エメラルドの存在は仔の教育に良くないと踏んだのだ。
だが、周りは真っ暗闇。そしてケージが床に転がっていて使い物にならない。眠り薬入り実装フードもどこかにいってしまった。
どうやって眠れば良いのだろう?

途方に暮れる2家族。エメラルドも手持無沙汰らしく、周りを見渡しながら突っ立っていた。

==============================


ふーっ

どこからか、音が聞こえた。実装石たち全員が目を見開いた。
この音は、この声は、間違いない。本能がそれを告げる。全身から汗が吹き出し、背中に冷たいものが走る。

猫だ。

猫がこの貨物室の中にいるのだ。きっと他のケージに入れられて貨物室に入っていたのが、先の揺れでケージから出てきたのだ。
実装石にとって猫は天敵だ。襲われればたちまち殺されてしまう。昼行性の実装石はこの貨物室の暗闇では何も見えないが、
猫は夜目がきく。そして貨物室は密室だ。どこにも逃げ場はない。

ミドリは咄嗟にテチを胸元の抱き寄せる。
エメラルドは周囲を見渡し、近くにあったケージのそばに隠れようとする。
グリーンは、グリュを抱き寄せるが、リンの姿が見えない。
「リン、どこデスゥ!?すぐママのもとに来るデスゥ!」
暗闇の中、リンの叫び声が聞こえた。
「ママ、ワタシはここテチ!ママはどこテチ!」

「デス!デカい声だすと気付かれるデスゥ!ワタシに何かあったらお前らただじゃおかないデスゥ!」
エメラルドが叫ぶ。


「リン、どこデスゥ!?」
「ママ、ワタシはここテチ!」
「リン!」

グリーンは何とか暗闇の中、リンを見つけることができた。
小さな仔実装の影が動いているのが見えたのだ。

よかった、ほんとうによかった。
ミドリも仔をもつ親として、他人事ではない。グリーン一家が無事揃って良かったと心から思い・・・
「ママ!会えたテチャアアアアアアアアア!!!!!!」

グリーンに向かって走っていたリンの影は、横から飛んできた黒い物体にのまれ消えていった。
猫に襲われたのだ。
「リン・・・?」
グリーンは力なく暗闇を見つめる。グリュも目の前で妹が犠牲になるのを見てしまった。
「リンちゃん・・・ワタシの、イモウトチャが・・・」

そのとき、ミドリはテチを左手に抱えたまま、暗闇の中辛うじて見えるグリーンのもとへ走っていった。右手でグリーンの手をひく。
「身を隠すデスゥ、危ないデスゥ!」
グリーンの手を引っ張るが、グリーンは動かない。
「リンが・・・ワタシのムスメが・・・」
ミドリが叫ぶ。
「グリーンちゃん!グリーンちゃんはグリュちゃんを守らないといけないデスゥ!」

その言葉に、グリーンははっとした。慌ててグリュを抱きかかえ、ミドリたちと共にケージの影に隠れた。
グリーンはミドリに話しかけた。
「ミドリちゃん、ありがとうデスゥ。あのままでは、ワタシは、グリュまで失うところだったデスゥ。でも・・・」
グリーンは大粒の涙を流し、続ける。
「でも、ワタシは・・・リンに、もう会えないデスゥ・・・こんなの嘘デスゥ・・・こんなの嫌デスゥ・・・」
ミドリも涙を禁じ得ない。
「グリーンちゃん、リンちゃんのためにも、グリュちゃんを守るデスゥ」

「そうデスゥ」
いつの間にか、エメラルドがミドリたちの前に来ていた。
酒臭い息を吐きながら、続ける。
「仔は残念だったデスゥ。でも今生きている仔たちを守るためにも、ワタシたちは協力すべきデスゥ。
 ワタシに考えがあるデスゥ。ここに皆で集まっていても、いずれ猫の餌食デスゥ。
 それならば、床に転がったケージを集めて壁を作るデスゥ。ニンゲンはバリケードと呼んでいるデスゥ」

ミドリが答えた。
「バリケード・・・デスゥ?」
エメラルドは不敵な笑みを浮かべながら、頷く。
「そうデスゥ。バリケードデスゥ。ケージは重くて運ぶのが大変だから、皆で協力してケージを運んでバリケードをつくるデスゥ」

ミドリもグリーンも、エメラルドの言うことはあまり信用ならない気がした。だが、他に手はない。
ここに留まっていれば、それこそエメラルドの言うとおり全滅だ。
「分かったデスゥ」
ミドリは立ち上がる。ずっと抱きかかえていたテチを床に下し、話しかける。
「テチ、聞いたとおりデスゥ。ママたちのケージ運びを、手伝ってほしいデスゥ」
「わかったテチ、皆で「」に着いてご主人様にもう一度会うテチ!」

==============================


ミドリ、テチ、グリーン、グリュ、エメラルドはケージを運び始めた。
まず彼らの近くにあったケージが2台。これは暗闇の中でもすぐ見つけられた。これらを貨物室の壁際に寄せて運び、バリケードになるよう向きを揃える。

実装石たちの恐怖は尋常ではなかった。
何も見えない暗闇。その中を歩き、ケージを押して動かしていく。
どこに猫がいるか分からない。次の一歩を踏み出したとき、目の前に猫がいるかもしれない。そうなれば自分たちは終わりだ。

3つ目のケージを見つけ、皆で押していた、その時。皆の上空を何かが飛んでいった気配がした。
全員が上を見上げる。暗くて何も見えないが、きっと猫が自分たちの上を飛び跳ねていったのだ。

滝のような汗を流しながら、エメラルドが皆に話しかけた。
「急ぐデスゥ。時間がないデスゥ。やつはすぐそこデスゥ」

そのとき、ケージを押していたグリュが足を滑らせ、転倒した。
「テヂィ!」
グリーンは慌ててグリュのもとに駆け寄る。
「しっかりするデスゥ!デ・・・」

グリーンは見た。転倒したグリュの足下に、暗闇の中、うっすらと毛むくじゃらの黒い足が見えた。
視線を上に上げていく。舌なめずりする黒い猫の姿があった。
猫はグリュの胴体を前足で踏みつけた。
「テチィ!動けないテチィ!ママ!助けてテチィ!」
グリーンは血の涙を流しながら、猫の前足に抑えつけられたグリュ引っ張り出そうとする。

ミドリは咄嗟に、テチが玩具替わりにしていたハンカチが足下に落ちているのに気付いた。
それを持ち、ハンカチを振り、猫の注意を逸らそうとする。
だが猫は叫び声をあげるグリュをずっと見下ろしながら、前足に力を入れたり抜いたりしていた。

非力な実装石であるグリーンの力では、グリュを引き出すことはできなかった。
むしろ猫に抑えつけられた状態で下手にグリュの腕や首元をグリーンが引っ張るため、
グリュの体はあちこちで皮膚が裂け、内出血が起きていた。
「ママ!ママ!痛いテチ!死んじゃうテチ!早く助けてテチ!!」

猫は前足をグリュから離し、グリーンに強烈な猫パンチを喰らわせた。
「デギャッ!」
真横に吹き飛ぶグリーン。

「ママーーーーーーー!!!!!」
その隙にグリュは暗闇に消えていった。


グリーンは吹き飛ばされた衝撃で頭から血を流し、倒れこんでいた。そこにミドリとテチがかけよる。
「仔が、仔が、みんな死んでしまったデスゥ・・・!ワタシはもう生きていけないデスゥ・・・!」
頭が大きく変形し血を流すグリーンには、最早ただ泣くことしかできなかった。
ミドリはかける言葉が見つからず、ただ、グリーンを抱きしめた。

エメラルドはその様子を一瞥し、ケージを押し進めていた。
だが、ケージを押し進めていた先に、気配を感じた。息遣いが、臭いがする。猫がいる。目の前に。
エメラルドが視線をケージの上に向けたその時にはもう、猫はケージの上からエメラルドに襲い掛かっていた。
「デギャアアアアアアアアアアア!!!!!!!あっち行けデスゥ!!!!!」

猫は爪をエメラルドの太った腹に食い込ませる。
「デギャアアアアア!!!!ふざけんなデスゥ!!!!」
エメラルドはパンツの中からある物を取り出した。飼い実装護身用のデスゥタンガンだ。

バヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!!

ふしゃー!

電撃を喰らった猫は咄嗟に逃げに入った。
エメラルドはゼェゼェを息をしながら、立ち上がる。デスゥタンガンをパンツの中に仕舞い、ケージを移動させようとする。

「・・・ちょっと待つデスゥ・・・」
グリーンが夢遊病患者のようにふらふらと歩きながら、エメラルドに近づく。
「その武器は何デスゥ・・・?それがあればグリュは助かったんじゃないかデスゥ・・・?
 何故グリュが襲われたとき助けてくれなかったデスゥ!!!!!!」

グリーンはエメラルドに襲い掛かる。だが体格で勝るエメラルドはグリーンを張り倒した。
「これはワタシの護身用デスゥ。糞蟲のためのものではないデスゥ」
グリーンは歯を剥き出しにして怒り狂った。
「ふざけんなデスゥ!てめぇの作戦のせいでグリュは死んだデスゥ!その武器を出さなかったせいデスゥ!」
「うるせーデスゥ!お前も猫の餌食になりたいならそうしてやるデスゥ!」

そう言うとエメラルドは再びデスゥタンガンを取り出し、グリーンの首元に当て、スイッチを入れた。
「デギャアアアア!!」
倒れこみ、痙攣するグリーン。

その様子を、ミドリとテチは黙って見ることしかできなかった。エメラルドはデスゥタンガンをミドリ・テチに向け言った。
「ワタシの言う通りにするデスゥ。バリケードをつくるデスゥ。でないとお前たちもこの糞蟲みたいになるデスゥ」
ミドリとテチは、黙ってケージを押し始めた。
どうしようもなかった。ここにいても猫に襲われる。エメラルドに歯向かおうにも体格は向こうの方が上だし、
武器まで持っている。しかもミドリはテチがいる。もしテチをエメラルドに人質にとられれば、それこそお手上げだ。

ケージを押していく。
倒れたグリーンから離れていくので、その姿は暗闇の中に消えていった。
だが、不審な音だけは聞こえた。

ガリッ
ピチャッ
グチャッ
「デーーー・・・」

ミドリもテチも、それが何の音なのか、分かっていた。グリーンは生きながら猫に食われていた。
ピチャッ
ピチャッ
「デーーー・・・グリュ、リン、ママもすぐそっちに行くデスゥ・・・もうすぐ・・・会える・・・デスゥ・・・デー・・・」

ミドリも、テチも、その音を、声を聞きながら血の涙を流した。どうにかなりそうだった。
頭を振って、何も考えないようにして、ケージを押していく。


==============================


ミドリ、テチ、エメラルドの3匹は5台のケージを貨物室の壁に並べ終えた。貨物室の壁を背にして、周囲をケージで囲んだ形だ。
だが、ミドリには気がかりなことがあった。
「ちょっと、狭い気がするデスゥ」

ケージで囲まれた領域は、成体実装一匹が入るくらいのスペースしかなかった。
「仕方ないデスゥ。できるだけ狭くしないと、猫はどこからでも入ってくるデスゥ」
エメラルドはそう言うと、ケージで囲まれた領域に一匹で入り込む。デスゥタンガンを足下に置く。

「デ、ちょっと待つデスゥ!ワタシたちはまだ入っていないデスゥ!」
ミドリが抗議するが、エメラルドは聞く耳持たない。
「お前たちに用はないデスゥ。糞蟲はさっさと猫の餌になれデスゥ。流石に成体2匹も食えば腹いっぱいになって猫も落ち着くはずデスゥ」

ミドリは激怒した。
「ふざけんなデスゥ!皆で助かるて話だったデスゥ!」
ケージを登ろうとするミドリ。だが、その視線の先に、またしても猫がいた。

「デデッ・・・」
ミドリは咄嗟にテチを庇う。エメラルドも異変にすぐ気づいた。だが、エメラルドはほくそ笑む。
「き、きたデスゥ。でもバリケードがあるから大丈夫デスゥ。周囲はケージがあるし、頭上から襲ってきたらデスゥタンガンでイチコロデスゥ♪」

猫はエメラルドに向かって飛び掛かった。
エメラルドは咄嗟に足下のデスゥタンガンを取ろうとする。だが、
「デッ・・・」
エメラルドは見た。デスゥタンガンのスイッチの「出っ張り」が、ケージの金網を固定するための蝶番に引っかかっていた。
「デッ・・・引っかかって・・・取れないデスゥ!!!」

なんとかデスゥタンガンを取り出したエメラルド。だが、目の前には既にエメラルドを見つめる猫がいた。
「デ・・・・」
咄嗟に猫を攻撃しようとデスゥタンガンを持つ右手を猫に向けるが、猫は鋭い爪でエメラルドの右手を引き裂いた。
「デギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

右手とともにデスゥタンガンを弾き飛ばされたエメラルドは叫び声をあげる。
痛みが、恐怖が、死への恐怖が、目の前に迫っていた。
「や、やめろデスゥ!ワタシは高貴な飼い実装デスゥ!こんなことして・・・デギャアアアアア」
猫はエメラルドのうなじに齧り付くと、そのままエメラルドを咥えたまま貨物室の上部へと消えていった。

暗闇からエメラルドの叫び声と、肉が、骨が引き裂かれる音がした。
「デギャアアアアアアアアアア!!!やめろデスゥ!誰か助けろデスゥ!糞蟲ども!クソ飼い主!!ママーーーーーー!!!!」
エメラルドの血と、臓物と思しきものが次々と暗闇からケージのところへ落ちていった。
やがて、何も聞こえなくなった。

==============================


ミドリはテチを抱きかかえ、周囲を見渡した。相変わらず暗闇で何も見えない。
だが、どこかに隠れなければ。ケージで作ったバリケードすら、無意味だったのだ。
そのとき、バリケードの影にあたる貨物室の壁に、通気口のような穴がうっすらと見えた。
穴は小さく、テチが辛うじて入るサイズだった。

「テチ、ここに入るデスゥ。ここならお前は身を隠せるデスゥ」
テチは穴に入りつつも、血涙を流し訴える。
「ママはどうするテチ!ママが隠れる場所がないテチ!」

ミドリはテチの目を見つめ、答えた。
「ママは・・・戦うデスゥ」

テチを入れた穴を背で塞ぐ形でミドリは屹立し、周囲を見渡す。ふと、ケージの施錠に使っていた金網が足下にあった。
武器になるかもしれない。
金網を両手にもち、右を、左を、前をみる。

エメラルドを襲うとき、猫は頭上から来ていた。
そう思い出し上を見上げたところに、猫が牙を向いてミドリ目掛け頭上から突進してきた。

ふしゃー

「デスゥ!」
なりふり構わず金網を振り回すミドリ。
猫もその様子にたじろぎ、ミドリと距離をおいて、狙いを定める。
凄まじい恐怖だ。心臓が、体中の血管が、恐怖に震えるように大きく鼓動する。
鼓動に合わせて、瞳孔が開いたり閉じたりするような感覚がする。
視界がふらつく。手が震える。金網を落としそうになる。

「ママ!」
背中からテチの声が聞こえる。そのとき、ミドリの脳裏には、何気ない日常の思い出が浮かんだ。
自分の胸元で眠るテチ。その可愛い寝顔にキスをする。テチはミドリの胸元で安心したように顔を深くうずめる。
テチの暖かい体温を感じ、より一層愛おしく感じる。テチを抱きしめたまま、自身も優しい眠りについた・・・

ミドリは思わず笑った。こんなときに、自分は何を思っているのだろう。死ぬかもしれないのに、仔も自分も、死ぬかもしれないのに。
だが、ミドリの心は変わっていった。テチとの思い出が、守るべき存在が、ミドリの闘争心を焚き付け、恐怖を塗りつぶしていった。
「デシャアアアア!!!!ワタシはこの仔の母親デスゥ!!!!!ワタシがこの仔を守るデスゥ!!!!」

猫はミドリめがけて飛び掛かる。ミドリは金網を猫に押し当て、進撃を防いだ。
そのままミドリは金網をひねり、全体重をかけ、柔道の寝技のように猫を床に押し倒した。
猫の爪がミドリに刺さる。だが猫とミドリの間にある金網のお陰で、致命傷にはなっていない。

しゃーーーー
「デシャアアアアアアアア!!!!負けないデスゥ!!!ワタシはテチを守りぬくデスゥ!!!!」

猫は押し倒された状態から逃げだそうと必死にもがく。ミドリは思った。
今は自分が有利だが、このままの状態が続けばスタミナ切れでいずれ猫に形勢逆転されてしまう。
そのとき、ミドリの目にあるものが見えた。
エメラルドのデスゥタンガンが、床に転がっていた。

あれだ。あれを使うしかない。だがデスゥタンガンはミドリと猫からは距離があった。
デスゥタンガンを取るためには、金網から手を放してデスゥタンガンを取りに行かなければならない。
そうすれば猫は確実に自分に襲い掛かるだろう。だが、やらなければ。このままではいずれ自分は、テチは死んでしまう。

「デッシャアアアアアアアアア」

ミドリは意を決して金網から手を放し、デスゥタンガン目掛けて突進した。
デスゥタンガンを持つ。スイッチを押す。バチバチと音を立てるそれを、猫にめがけて突き出し・・・

ズシャ!

鈍い音と、顔を抉られる感覚がした。
猫の爪は、ミドリの両目を直撃していた。だが、ミドリのデスゥタンガンもまた、猫の首元に直撃していた。

しゃーーー

猫は背中を丸め、ちょうど走り幅跳びを逆再生するような態勢でミドリから離れ、腹を上に向けて倒れた。

==============================


「ママ!ママ!!しっかりしてテチ!!!」

ミドリはテチの声のする方向に顔を向ける。目はもう見えなかった。
「テチ・・・ママはやったデスゥ・・・おまえを守ってみせたデスゥ・・・」
「ママ!ママ!!しっかりしてテチ!!!」
「やつは・・・猫はどうなったデスゥ・・・」
「仰向けになってるテチ・・・気絶してるみたいテチ・・・」

危機は去った。ミドリは安堵した。途端に、寒気が襲った。ミドリは安らかに全てを悟り、テチに語りかけた。
「テチ・・・ワタシはお前を産んで幸せだったデスゥ・・・お前の母になれて良かったデスゥ・・・」

テチは顔をミドリに埋め、泣きじゃくる。
「テチ・・・あまり抱き着いてはダメデスゥ。血が付いたら、猫が気付くデスゥ」
「テチ・・・強く生きるデスゥ・・・この武器はお前が持つデスゥ・・・」

ミドリはデスゥタンガンをテチに渡す。テチは嫌々をするように顔を横に振り、泣きじゃくる。
「そんな・・・ママ!しっかりしてテチィ!!」
ミドリはテチの声のする方に手を伸ばす。ちょうど、テチの顔に触れた。顔を撫でる。
これでもう思い残すことはない。
その言葉が脳裏に浮かんだ途端、ミドリの手は力なくテチの顔から離れた。

母の死を看取ったテチは、デスゥタンガンを持った。
スイッチを入れる。
バチバチと音がしたが、すぐに動かなくなった。バッテリーが切れたのだ。
「テェ??」


そのとき、貨物室の照明が付いた。飛行機が目的地の「」に到着するのだ。
テチは思った。
ワタシは生き残ったのだ。ママの言葉のとおり、強く生きよう。これから大変なこと、つらいこと、たくさんあるだろう。
でも、この体験を経た自分は、ママの戦いぶりを見た自分なら、きっと、乗り越えられる。
大丈夫。ワタシはやれる。


照明のついた貨物室を見渡す。辺り一面、血の海だった。貨物室にいた、皆の血だ。皆、さっきまで生きていたのだ。
今はもう自分しかいない。
ミドリの目元は抉られて顔の上半分が無くなっていた。だがその口許は安らかな雰囲気を帯びていた。偉大な、立派な母だったとテチは心から思った。
エメラルドは腹部が原型を留めないほどグチャグチャになって死んでいた。
グリーンも同じだった。グリュは、リンは、どこにいるのだろう?完全に食べられてしまったのだろうか?姿が見えない。

壁際に目をやると、バリケードに使った5つのケージが見える。こんな大きなものを5つも自分たちは運んでいたのかと、改めて驚いた。
ふと、思った。貨物室にいたのはミドリ・テチ親仔と、グリーン・グリュ・リン親仔と、エメラルドと、猫のはず。
何故ケージは5つあるのか?5つ目のケージには何が入っていたのか?


飛行機は滑走路に着陸し、ドスンという大きな振動が貨物室にも伝わった。
そのとき、テチの頭上でグルルルル、という、車のエンジン音のような音が聞こえた。
テチが影に覆われる。
テチが振り向き、見上げた先には、牙を剥き出しにしたドーベルマンがいた。

「テエェ・・・テチャアアアア!!!」

テチは理解した。5つ目のケージに入っていたのは、この犬だったのだ!
ドーベルマンはテチを口に咥えると、唸り声を上げながら口に咥えたテチを左右に激しく振り回し、上半身だけ食いちぎり、飲み込んだ。
床に落ちたテチの下半身はビクビクと痙攣した後、動かなくなった。


無事「」空港に着陸した飛行機では、機内アナウンスが流れていた。その音はわずかだが、テチたちのいた貨物室にも漏れ聞こえていた。
「・・・皆様の次のご搭乗を乗務員一同、心より、お待ちしております。」

 

 

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  • 작성자Jafes | 작성시간 23.02.11 https://cafe.daum.net/sweetjissouseki/avIl/2270
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