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おいしいのお顔
日本のどこかの自然公園。その芝生が生い茂る広場エリアで人間に交り、いくらかの野良実装の姿が見受けられた。
この町は愛護派も多く、まだ一斉駆除の訴えはなく、人間と実装石はお互いの領域を侵すことなく暮らしていた。
そのエリアの一角でサッカーに興じているこども達がいた。そこから離れてへコんだピンポン玉でキャッチボールを楽しむ
二匹の姉妹実装がいた。それを温かく見守る母実装がいた。
「デスデスーそろそろご飯にするデスー」
母の言葉に姉妹はピタリとボール遊びを止めた。
「てっちゅーん、お腹ペッコペコテチー」
「お喉もカラカラテチィ」
二匹はトコトコと母実装に駆け寄る。母はペットボトルから蓋のカップに水を注ぐと「仲良く飲むデスー」と言ってそれを渡し、
ビニール袋からご飯を並べ始めた。
「ほら妹ちゃん、お先どうぞテチー」
「てっちゅーんありがとうテチィおねちゃ」
姉はしっかりと妹の世話をする。妹も自分勝手に成らずに姉の分を残して飲み、
「おねちゃどうぞテチィ」といって返した。
それを見て母はニコニコになる。自分の子育ては必ず成功してこの子たちを巣立たせてあげられるだろうと確信していた。
「ママ!ママ!今日はとびっきりのご飯があるって聞いてテチィ。早く教えてほしいテチィ!」
妹が胡坐をかいて座る母の足にすり寄る。地面を見ると人参や大根の皮、魚の骨、干からびたご飯の欠片、死んだ蝶々の死骸、
まさに今までにないほどのボリュームのご飯が並べられ、妹は目をキラキラと輝かせ始めた。
「てぇ・・・・凄いてちぃ」
「美味しそうなウマウマいっぱいテチー」
姉妹は思わず生唾を飲み込む。この二人は冬越えが叶って春を迎えてから生まれた子であり、今までは冬に貯め込んでいた
ドングリの余りなどを日に一粒程度のご飯しか経験して来なかった。
それが今は初夏、食べ物が徐々に増え始める季節になり、人間のゴミ箱を漁る難易度も冬ほどではなくなり、しかも豊富になってくる。
人間には食べられなくなった腐りかけの廃棄物でも実装石には立派な食料だ。
「今日はこれだけじゃないデスー。奮発してこんなものもあるデスー」
母はウキウキとしながら最後の一品を取り出して子供達に見せた。茶色の衣に肉が包まれ、甘辛いソースがしみ込んだその名は
「トンカツ」である。
「てっちゅーん何それ何それ!」
「お肉テチィ!?大きいてちぃ!良い臭いするてちぃ!!」
それが手に入ったのは偶然であった。
この公園でお昼にしようとした一人の老人がトンカツ弁当を広げた時である。それがひょんなことから傾いて中身の殆どを落としてしまった。
老人はひどく落ち込んでまたお昼を買いにどこかへ去って行ったのであるが、そのゴミをそのままにして去ってしまったのだ。
それを沢山の野良が見ていた。
老人の姿が見えなくなったのを見届けると野良たちは激しい奪いあいを始めた。
その中にこの母も交っていたのだが、彼女は子供たちのためにと必死で手を伸ばし、その弁当のメインたるトンカツの真ん中の
大きいものを一つ、端のほとんど肉のない所を一つ、
合計二つのトンカツを幸運にも手に入れることができたのだった。
母親はそのトンカツの大きい方を二つに割って子供達に分け与えた。
自分は小さいほうを取った。
「さあ準備できたデス。召し上がれ」
母が言うや、姉妹はすかさずにトンカツにかじりついた。
「てっちゅーん!ウマウマテチー!!これはきっと一晩かけてじっくり煮込んでるテチー!!」
「こんな大きいお肉初めてテチィ!きっと 牛肉百% テチィ!いや 1000% テチィ!!」
きっと言葉の意味も知らずに二匹は自分の脳で思いつく限りの語彙を全開にして言葉を垂れ流す。
そうして他のご飯に目もくれずに二口三口とトンカツにかぶりついてゆくと不意に妹が顔を上げた。
「ママ!ママ!わたち今からオイシイの顔をするテチィ!良く見ててほしいテチィ!」
そういうと妹はひと際大きく口を開けるとめいっぱいにトンカツを頬張り、噛みづらそうにしながらもニッコニコしながら
頑張ってかみ砕いていた。
そしてある程度かみ砕いて口に余裕ができてきた時、妹はニッコニコとして母親にそのオイシイの顔を向けるのだった。
「むぐむぐ・・ゴックン。プハァ、どうてちママ!私オイシイのお顔できてたテチィ?」
「(*●ω〇)ウンウン、凄く良く伝わったデスー次女ちゃん、お前は本当に良いお顔ができるデスーママも幸せデスー」
言われて、妹はてへへと恥ずかしそうに赤面してモジモジしだした。それが母には一層に可愛らしく見えた。
母はそんな妹の頭をヨシヨシと撫でてやりたくなって手を伸ばすのだった。
「てぢっ」
その刹那に短い声を残して妹は哀れにも飛んできたサッカーボールに潰されてしまった。
「おーい何やってんだよ。ざっけんなよ、双葉!虫潰しちまったじゃねえか!!」
「そういうなよゴメンって言ってんじゃんかとしあきぃ」
「ごめんで済むかよ、これ買ってもらったばっかりなのに虫のクソついちゃったじゃねえかー」
「洗えば落ちるってーあと安心しろよー俺いつかJリーガーになって弁償するからさー」
「ばっかじゃねえの、お前になれるのかよ」
「なれるってーだから今のすっげーシュート決められたんだろー?」
「それなー」
何がそれなーなのか。ポールを拾いにきた子供たちは言いたい事を素直にぶつけあい、実にあっさりと去って行く。
そこに実の家族を一つ失って動けずに固まっている二つの命があったのだが、子供達にはそれがただの染みとしか見えなかった。
ちなみに双葉は女の子であり、将来はとしあきと結婚する。そして双葉のプロ選手の夢は代わりにとしあきが叶えたのだった。
「て・・・・て・・・てて・・」
動けずにいた二匹はしばらく妹の染みを見つめていたのだが、先に動き始めたのは姉の方だった。
「てっちゅぅうううううううん!やったテチーご飯のお肉が増えたてちぃいいいいい!!」
「おまえはなにをいってるデス」
急に狂喜乱舞を始めた娘を見る母の目は実に冷ややかであった。
それは一切の感情を失ったがらんどうのようで感情も何も写さず、わずかに白く濁っている。
「テチーウマウマテチートロトロテチー」
その娘はそこまでの糞虫というわけではない。賢くはないが責任もって妹を世話したし、母と妹を心から愛していた。
あくまでも普通の実装石であり、だが自分の気持ちよりも野生動物としての本能を優先するのだ。
妹が生きていた時はきちんと妹に見えた、だが死んだらそれはお肉に見える。
そうして食べないと秋までにどう太る。冬をどう越してゆく、そういった問題を乗り切るためにその妹を食らえることは
とても重要なのだが、残念だったのはその母親は娘よりずっと情に厚かった。
同族食いは野蛮であり、母にとっては忌むべき行為であり、気が落ち着けば妹の墓を作ろうとしただろう。
「テチーこの足モッチモチでおいちーテチー!この赤いのと緑のクソを付けて食べると味わいがかわってウマウマテチー」
その喜びようはトンカツの比ではなかった。野生の味覚の上ではしたたる血の味がクソの味が人工のソースや油の旨味に勝るというのか。
勢いに身を任せてその子実装は妹を食らう。腕を 足を 腹わた を食らった。そして漸く母親を視線を向けた。
「ママ!ママ!今度はわたちが妹ちゃんよりももっと可愛いオイシイの顔するテチ!見ててほしいテチ!」
そういうと娘は肉片と血と糞がグズグズと交じり合ったプールの中から一つの塊を引っ張り出した。
びろんと伸びた皮のような部位で、まんまるの穴が二つあり、△状の裂け目に似た穴が開いていた。妹の顔面の皮であった。
「てろーん」〈●△●〉
娘はその妹の顔を手で伸ばして母に広げて見せる。
母の目には妹の重要な何かに見えたのか体がピクリと反応して揺れた。
次に娘はそれを片手で持つと天高く上げてみせ、自分の口に落とすようにしてその顔を口に含んでいった。
そしてムシャムシャと噛むと、口いっぱいに広がる幸福にぶるりと身を震わせてニコニコと母親を見た。
母親は無反応でその娘の姿を見る。あえてこの娘の糞虫なところをあげるとすれば、それはこの子が母親と分け合うということを
しなかったことだろう。「食べていいてち?」と聞きさえすれば、もっと違う未来が待っていたかもしれない。
「・・・・次女ちゃんはおいしいデス?」
母がそう尋ねると娘は無言で首を縦に振る。
「・・・・お前は次女ちゃんを大切に守ると約束したはずデス?」
また娘は首を縦に振る。
そこの後ろめたさや邪気はない。そう母と約束したことはこの娘にとって輝かしい思い出であった。
母親の言葉の意味を理解できない娘はその内に口のものを全て飲み込むと、うっとりとしながら
その空っぽになった口の中を母親に大きく開いて見せた。
そしてプハァと息を吐く。
その恍惚とした表情を見かねて、母親はギリりと奥歯をかみしめた。
母親はある固い意志を持って決断すると黙ってビニールの中に手を入れる。
そこから固い石を取り出す。
元来はカマキリなどの外敵を撃退するのに用いるそれを手にしっかりと握ると娘に視線を送る。
「どうテチ?どうだったテチ?ママ!わたちのオイシイのお顔、妹ちゃんの時よりずっとお上手だったテチ?」
母親はもう何も言わず、大きくその石を振りかぶるのだった。
END
ブタやろう コメント
初めまして初うpになる新参です。
このスクは、mayの実装スレにて私が投下したスクに修正を加えて再掲載したものです。
これからも時に投稿するかもしれませんが生暖かく見て頂けたら幸いです。