「数週間後」を的中? “強力タッグ”が迫る地震予測の実力と限界
深掘り図解あり垂水友里香
毎日新聞2026/6/13 06:30(最終更新 6/13 06:30)有料記事1884文字
世界最大級の岩石摩擦試験機について説明する防災科学技術研究所の山下太上席研究員=茨城県つくば市で2025年6月16日、垂水友里香撮影
人工地震を作り出す世界最大級の試験機と人工知能(AI)という強力なタッグで地震予測に迫ろうという研究が進んでいる。微小な地震活動の高まりがいつ大地震につながるのか。発生の「数週間前」の予測に期待を抱かせる成果が得られた一方で、大きな課題もみえてきた。
実験室で地震を再現
「断層を押す力が次第に蓄積され、強度を超えると……」。ドーン。腹の底に響く鈍い音が広いプレハブの実験室に響き渡った。茨城県つくば市の防災科学技術研究所。巨大な岩石摩擦試験機を使って、山下太・上席研究員らが人工的に地震を作り出す実験を繰り返していた。
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地震を再現する世界最大級の装置。中央の黒い板が岩石=茨城県つくば市の防災科学技術研究所で2023年9月12日午後3時4分、信田真由美撮影
長さ6メートルほどの巨大な2枚の石の板を重ね合わせ、断層面に見立てた接触面に圧力を加える。さらに、最大1200トン相当の力を加えられるジャッキでそれを横から押していき、日本列島の断層にかかるプレートの沈み込みなどの地震を起こす力を再現する。すると、1分超に1回の割合で断層がずれ、「地震」が繰り返し発生した。
「地震が起きる数百年から数千年のタイムスケールを数分に縮めて、この場所で再現している」と山下さんは言う。実際の地震はいつどこで起こるか分からない。だが、試験機では断層が滑り始める場所と時間をつぶさに観測することができる。
微小地震のデータ集積
試験機は2023年に導入された3代目だ。「初代」のデータを使った京都大大学院博士課程の乗杉玲寿さんや金子善宏教授(地震学)らの研究チームの論文が25年10月、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された。
岩石摩擦試験機と人工知能(AI)で地震の発生を予測する①
初代の試験機は2枚の石の板を重ね、より自然に近い状態を再現するため、接触面(幅1・5メートル)に砂の粒を入れた。そこに圧力をかけ、人工的に40回以上の地震(本震)を発生させる。センサーで観測するのは、本震と本震の間に生じる小さな地震(微小地震)だ。
プレート運動などによって岩盤に力が加わり続ける過程で、小さな地震「微小地震」が複数起きる。巨大地震の前にはこうした微小地震の活動が高まるケースがあることが分かっている。例えば14年にチリ沖で起きた地震など、世界の10以上の大地震でこれまでこうした事例が確認されているという。
実験では、集めた微小地震のデータの一部をAIに学習させ、残りで次に本震が起きる時期を予測させた。
その結果、AIは次の本震が「0・001秒後に起きる」ことを的中させた。試験機はあくまで実際の断層を模したモデルで、再現できる規模や温度、圧力条件などには限界があるものの、自然界のタイムスケールに当てはめて単純計算すれば、「数週間後」の地震を予測するのに匹敵するという。
AIの「頭の中」
微小地震のデータのみから精度良く大地震の発生が予測できる可能性が明らかになったが、一方で、AIがどのように予測したかは「ブラックボックス」だった。
岩石摩擦試験機と人工知能(AI)で地震の発生を予測する②
そこで、試験機と同じ状態を再現した数値シミュレーションを用いて、AIの予測の「中身」を推定した。すると、本震が起こる直前、通常の地震に比べ断層がゆっくりずれ動く「スロースリップ」が起きる領域で内部にかかる力(応力)が急激に高まっていた。AIはこうした変化の特徴を、微小地震の発生間隔や規模の変化を手掛かりに捉えていたとみられるという。
地震と地震の間に起こる微小地震のパターンは非常に複雑だが、人の目では規則性を見いだしにくいその変化をAIは数値化し、次の地震までの「残り時間」を割り出していると考えられるという。
金子教授は「AIはブラックボックスである半面、人間が認知できないようなパターンを気づかせてくれる」と指摘する。
データ量という壁
ただし、現実の地震予測に役立てるためには、乗り越えなければならない大きな壁もある。
人工的に地震を起こす世界最大級の岩石摩擦試験機=茨城県つくば市で2025年6月16日、垂水友里香撮影
AIは今回、微小地震と本震の発生履歴のデータを学習し、そこから高い精度で次の予測を導き出すことができた。
だが、現実にはそうしたデータは存在しない。金子教授は「例えば数千年分の巨大地震の履歴と地震活動のデータがあれば、現実の地震もAIが非常に正確に予測してくれるのではと期待の持てる結果になった。だが、今回分かったのはあくまでも、ある程度のデータがあればAIに学習させることで将来予測できるということ。むしろ人間が生きるスケールで地震を予測する難しさが示された」と語る。実際の地震予測の難しさだ。
それでも、試験機のサイズが徐々に大きくなり、より自然地震のスケールに近づいている。金子教授は「最新のAIを使って予測の限界に挑戦しているというのが現在地だ」と語った。【垂水友里香】
