AI時代の採用、関係性と文脈=岩崎由夏・株式会社YOUTRUST社長
毎日新聞2026/6/11 東京朝刊有料記事1287文字
株式会社YOUTRUST社長の岩崎由夏さん
転職先やキャリアの相談はまず、信頼できる友人や元同僚に打ち明けたいものだ。その欲求が今、採用の形を変えようとしている。
採用に関し、私は大きく三つの時代があったと考えている。
第一は「エージェントの時代」。転職したい人が人材紹介会社に相談し、仕事を紹介してもらうスタイルだ。第二は「スカウトの時代」。ネットの普及で転職サイトが林立し、そこで企業が求職者に直接働き掛けるようになった。だが、この手法にも限界が来ている。スカウトが増えすぎて全員が同じ人材を奪い合う構図が生まれ、求職者も企業も疲弊しているのだ。
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そして今、人工知能(AI)の急速な進化とともに、迎えようとしているのが「ネットワークリクルーティングの時代」だ。働く人が所属を超えてつながり、企業は転職市場に出ていない人材とも関係を築いてアプローチをする。「関係性」と「文脈」を軸にした新しい採用手法と言える。
私は独立前、IT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)で採用担当をしていた。本人の知らないところでキャリアが希望でない方向に誘導されかねない人材紹介の手数料の仕組み、経歴書だけで能力や将来性を見極める難しさ……。違和感が積み重なっていった。加えて、本当に来てほしい人ほど転職市場には出てこない。声をかけたくても、そこにつながれる手段がなかった。
ならば作ろう、と開発したのが採用AIエージェント「YOUTRUST TALENT」だ。仕事専用のSNS「YOUTRUST」上で登録者は仕事仲間との交流や情報発信を通して社外のつながりを広げていく。企業は社員のネットワークを生かして、転職市場にまだ出ていない優秀な人材へ手軽にアプローチできる。こうして信頼に基づいたカジュアルで幅広い採用活動が可能になる。
この仕組みは、求職者、企業の双方にメリットがある。求職者は自分から探しに行かなくても声がかかるチャンスがある。企業は社員のつながりを基盤にして出会えばミスマッチが減る。紹介者がその人をどう評価しているか、どんな仕事を共にしたかという「文脈」は、書類選考や面接では得られない判断材料になるだろう。
AIが席巻する時代において、こうした関係性と文脈はより重要になると私は考えている。AIは候補者の探索、適性の判断、スカウトメッセージの作成などを自動化できる。採用の作業効率が飛躍的に上がるのは確かだが、「あの人なら信頼できる」という人間同士の関係性から生まれる情報は生み出せない。
だからこそ、社員が社外のつながりを持つことを「離職のリスク」ではなく「採用のための資産」と捉えてほしい。日ごろから誠実に仕事と人に向き合い、ネットワークを広げる社員こそが、これからの企業の採用力になる。
生産人口が減り技術革新が加速する今、人材の流動性を高め適材適所で生産性を上げることが、日本経済の成長につながる。採用の形を変えることは、一企業の話ではない。その取り組みを、社会全体で進めていきたい。
■人物略歴
岩崎由夏(いわさき・ゆか)氏
大阪大卒業後、DeNA勤務を経て起業。YOUTRUSTの登録者は約50万人。
