社会経済圏にも目を向けて 理想の大都市制度とは=待鳥聡史・京都大教授
毎日新聞2026/6/14 東京朝刊有料記事1714文字
待鳥聡史・京都大教授=宮本明登撮影
大都市にふさわしい政治・行政の仕組みはどのようなものか。古くからある問いだが、ここにきて再び活発に議論されるようになっている。
きっかけとなったのは、昨年10月に神奈川県内の3政令指定都市(横浜・川崎・相模原)が共同で「特別市」制度の法制化を国に要望したことである。その後、日本維新の会が自民党との閣外協力を始めるに際して、「副首都」の創設を合意書に盛り込んだ。
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副首都指定の要件に特別区設置を含めれば、過去2回住民投票で否決された「大阪都構想」の実現が近づくというのが維新の立場であり、大阪では3回目の住民投票実施に向けた動きが強まっている。他方で、国民民主党は副首都ではなく特別市の創設を優先する方針だとされる。
特別市制度と大阪都構想は、いずれも大都市制度の大きな変革を目指すものだが、その方向性には共通点と相違点の両方がある。
共通点としては、政令指定都市のような大都市に、国・都道府県・市区町村という3層制とは異なる地方自治制度を導入しようとすることが挙げられる。首都を含む大都市を別格扱いする事例は、イギリスや韓国などにも見られ、日本でも東京都はそのような存在だと考えることができる。
大きな相違点は、特別市制度が大都市の都道府県からの実質的独立を目指すのに対して、都構想は大都市を都道府県に融合あるいは溶解させるところにある。大阪についていえば、都構想が実現すると大阪市は消滅し、大阪府内の特別区に再編されることになる。
当然ながら、政令指定都市などでは特別市制度への支持が強く、都構想には大阪市解体を意味するという批判が根強い。逆に都道府県側から見れば、財源や権限を奪われる特別市よりも都構想の方が望ましい。維新が3回目の住民投票は大阪府全体で行う意向なのも、都構想には大阪市以外の大阪府内での支持が見込めると考えるからであろう。
このように目立った相違があるものの、特別市も都構想も、大都市の社会経済的な潜在力に期待していることは確かだ。産業が集積し、人口が多い大都市が活性化することで、地域の社会や経済に大きな効果が生まれるというわけである。
その際に、大都市以外を含む都道府県の関与は制約になると考えれば特別市に、都道府県と大都市が一体化できると考えれば都構想に、それぞれ行き着く。
しかし問題は、大都市の活性化は都道府県との関係によってのみ影響されるのか、という点である。国(中央政府)を含む政治・行政の動向だけで決定的な変化がもたらされるほど、大都市の社会経済活動は甘くないのではないだろうか。
具体的には、日本の大都市のほぼすべては近隣の市町村を含んだ大都市圏を形成し、社会経済活動も多くは大都市圏全体として行われている。埼玉県に住み東京都心に通勤する、神奈川県平塚市から横浜市に通学する、兵庫県西宮市から大阪市に通院する。こういった行動は大都市圏の生活においてごく普通に見られる。特定の政令指定都市内で生活が完結することはまれであり、都道府県にまで広げても、首都圏・中京圏・近畿圏では例外的であろう。
つまり、大都市の活性化を考えるときには社会経済活動の範囲全体に目を向ける必要がある。特別市にせよ都構想にせよ、政治・行政の制度的単位を変革するだけでは、そのような効果は十分に望めないのである。都構想は大阪市の広域化という面も持つが、それでもなお近畿圏の社会経済活動の範囲には遠く及ばない。
政治・行政の単位と社会経済活動の圏域が大きく異なっており、ほとんどの場合に後者の方が広域に及んでいるという事実こそが、大都市が直面する課題の核心にある。各国で長らく、中心市と郊外の問題、あるいは広域行政の問題が考えられてきたのは、そのような理由による。
したがって、大都市制度の変革が、それを支持する論者の一部が重視する社会経済的効果を得るには、政治・行政の単位としての大都市を考えるだけでは不十分である。大都市圏という社会経済活動の単位と大都市制度の整合性をいかに確保するのかを的確に構想できない限り、制度変革による大都市活性化は絵に描いた餅に終わるだろう。=毎週日曜日に掲載
