パリ郊外のベルサイユ宮殿は…
毎日新聞2026/6/20 東京朝刊有料記事608文字
スカビーノ米大統領次席補佐官がX(ツイッター)に投稿した、パリ郊外のベルサイユ宮殿で17日、イランとの覚書に署名するドナルド・トランプ大統領の映像の一場面
パリ郊外のベルサイユ宮殿は1919年、第一次世界大戦の講和条約が結ばれる舞台となった。調印式は「戦争の間」と「平和の間」をつなぐ回廊、鏡の間で行われた。敗戦国のドイツに巨額の賠償を負わせ、屈服を強いるものだった▲その宮殿で、イランとの戦闘終結の覚書に署名したトランプ米大統領である。G7サミットでフランス訪問中、ベルサイユでの署名はマクロン仏大統領のお膳だてだろうか。双方とも電子署名は済ませていたらしいが、両国大統領が正式にサインし、発効を急いだ形だ▲100日を超す戦闘を経ての合意は、核問題をはじめ米側の譲歩が多い内容といえる。トランプ氏も国内経済が圧迫要因になったと認める。核問題交渉のさなかで戦闘を始め「すぐ終わる」との発言を再三繰り返した。だが、実際は誤算の連続だった▲何より驚いたのは「一つの文明が今夜滅びる」とイランを脅したことである。紀元前からペルシャ文明が栄えたイランの地だ。大国の武力でどうにでもなるという傲慢さがあらわになった▲軽はずみで始めた戦闘でも結果は甚大だ。イランの小学校で失われた少女168人の命は返らない。原油や資材の高騰と不足は国際経済に大きな損害を与えた▲最終合意に向けた、米とイランの60日間の協議が次の焦点だ。展開次第で戦闘を再開するとトランプ氏は息巻く。どうか、自重願いたい。ナチス・ドイツの台頭を生み、平和を築けなかったベルサイユ条約のような失敗を繰り返さぬためにも。
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