対立の本質 政権支持者の結束装置=藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員
毎日新聞2026/6/21 東京朝刊有料記事1721文字
=平川義之撮影
何が対立の本質なのか。言い換えれば、表に見える対立の、裏に隠れた亀裂は何か。
トランプ大統領を巡る米国内での対立を例に考えてみよう。支持率が下がっているというが、これだけむちゃを重ね、関税だの原油価格高騰だのでインフレを深刻化させても、米国民の3分の1以上はまだ彼を支持している。支持層の多くは「トランプ氏は救世主であり、彼の失敗とされるものは、敵による妨害の産物だ」と信じているようだ。
かたくなまでに信じ込む姿勢の根底にあるものは何か。信じる同志だけが味わえる連帯感の高揚、共に敵対者を攻撃することで得られる快感が、彼らの暮らしの中で積もるストレスを発散するのに不可欠になっているのではないだろうか。
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徒党を組み、反対者を攻撃することで脳内に快感物質が出るというのは、小さな集団で大型哺乳類を狩って氷河期を生き延びた人類のDNAに刻み込まれた仕組みらしい。そのような快感物質への依存症のようになってしまうと、仲間と共にたたく敵が常に必要になる。その点、問題行動を起こし反対者を生み続けるトランプ氏は、支持者に快感物質を得る機会を与え続ける格好のヒーローなのだ。
支持者のストレスを増幅させているのはインフレと資産格差であり、それを拡大させているのがトランプ氏だ。だが、増幅したストレスが、その発散のために「対立依存症」に陥る庶民を増やし、逆に岩盤支持層を固める結果となっているという、厄介な構造に気付かねばならない。
そんなトランプ氏の米国とイスラエルによるイラン指導部の殺害は、経済不振とイスラム原理主義に嫌気がさしていたイラン人に、「挙国一致しての米国への反撃」という「快感物質のもと」を供給し、革命防衛隊の延命に貢献してしまった。さらにトランプ氏が、中間選挙での敗北を避けようとイランとの妥協に進みつつあることは、ここぞと団結してさらなる危機に当たろうとするイスラエル人を増やし、ネタニヤフ首相の延命につながるのではないかと筆者は危惧している。
そんな中、日本では国旗損壊罪の制定という、どこから見ても不要不急の話が進みつつある。
「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」で「公然と国旗を損壊、除去または汚損」した場合に処罰するというのだが、数日前に62歳になった筆者は、人生で、そのような場面を見たことも聞いたこともない。提唱者は、いったい何から何を守ろうとしているのか。
何かを守るのではなく、亀裂を顕在化させようとしているのだと考えれば、つじつまが合う。「不快または嫌悪の情」の解釈の中に、内心の自由に抵触する危険をはらむこの法律は、基本的人権の侵害可能性を減らしたいなら、安易に賛成しがたい。他方で国家主義者には、反対者が社会の敵に見えるだろう。どちらでもない層も「特に反対する理由はないよね」と受け止めるのではないか。つまりこの法律は、反対者をあぶりだし共に攻撃することで、政権支持者の結束を固める装置としての機能を持っているように見える。
衆議院比例代表の定数削減案も似ている。予算削減の効果などスズメの涙、少数意見が生き残る可能性を減らすだけの案だが、これに反対する者を敵としてたたくことで、政権支持者は結束を高められるのだろう。
国会が議論すべき問題は、本当は別にある。高市早苗首相の陣営が自民党総裁選などで対立候補を中傷する動画の作成に関与したとされる問題さえも、ネットでは反首相勢力の陰謀のように扱われ、首相の支持者が一致して敵をたたく機会として消費されつつある。
動画を作成したとされるIT会社代表と首相の秘書との関係はどうなのかなど、政局ネタになる要素も多々ある。だがこの件は、まずは首相の進退とは切り離して、再発防止策を一般的な制度として講じるべきものであり、それをしなければ次からの選挙は、ますますカオスになっていくだろう。「誰か支援者が『自主的』に作成するネット動画で自分への支持を固めたいので、今回は不問に付しましょう」というような態度を許すべきではない。
自由民主主義の良識に基づいて行動する議員は、与党各党の中には残っていないのだろうか?=毎週日曜日に掲載
