実家が再び荒らされた
毎日新聞2026/6/21 東京朝刊有料記事853文字
小動物の侵入でめちゃめちゃになった実家の台所。ハクビシンか、それともアライグマの仕業か=滝野隆浩撮影
<滝野隆浩の掃苔記(そうたいき)>
九州の施設の母に会いに行ったときは、必ず実家に立ち寄る。住む人がいないと、家はすぐ傷むという。少しの間だけでも風を通そうと思った。前回書いた、母の緊急入院の際もそうした。
玄関横のキーボックスから鍵を取り出し解錠し、家に入る。玄関にはまだ母の靴があり、傘も数本、げた箱にかかっている。慣れ親しんだ風景である。
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部屋に入った。えっ、なに、どうした! 思わず声が出た。荒らされていた。
広い居間の入り口のマットに小動物の足跡。床の間に続くドア付近に、小麦粉の袋が破れて白い粉がまき散らされていた。ここにも足跡。そして即席めんの袋。右側、台所もめちゃめちゃ。もち米が散らばり、しょうゆの小袋も床の上に。食器棚が開き、有田焼の茶わんが二つ落ちて、割れていた。流しにはフンのようなものまで。
実家は市役所まで歩いて行ける市街地にあるが、すぐ上がちょっとした里山になっていて、ハクビシンやアライグマも生息していそうだ。やつらが侵入したのだ。
怒りがわいてきた。誰が悪いのか。母か。母は悪くない。2年前、私が主導して一気に施設入所を決めた。母に食料を処分する時間はなかった。侵入者の小動物にも罪はなかろう。人の気配のしない家に入ったら、好物があった。狂喜乱舞。粉モノの袋をズタズタにしながら食った。それだけ。
私が悪いのだ。そして私しか片づける者はいない。掃除機は壊れていた。悪態をつき汗だくになり、雑巾がけをした。そういえば昨年、空き巣に入られ、警察の実況見分に立ち会った。2度目の実害である。この家、どうしよう。処分できるのだろうか。考えるだけで頭痛がしてきた。
翌日、再び病院に会いに行った。容体はよく、間もなく退院できるという。心配するから言わないでおこうと決めていたのに、思わず小動物侵入事件の話をしてしまった。ハクビシンにやられてさ……。「ふーん」と言ったきり、母は別の話をし始めた。80代も後半になると、イヤな話は聞こえなくなる。もう名人芸の域である。(客員編集委員)
