片頭痛治療に革新! CGRP関連薬とは
2026/06/08無料会員記事
=ゲッティ
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前回は、市販の鎮痛薬のなかにいかに危険なものが多いかという話をしました。そのような危険な鎮痛薬はよく効きますし、鎮静作用もありますから、簡単に依存症に陥ってしまいます。実際、すでにそれらの薬が手放せなくなっている人は決して少なくありません。今回は頭痛のなかでも特に激しい痛みに苦しめられることが多い片頭痛について、新しい治療法を紹介したいと思います。
前回も述べたように、1990年代までは有用な頭痛薬がほとんどなくて、NSAIDsが効かなければエルゴタミンという副作用が多い薬を使わざるを得ませんでした。2000年代に入りトリプタン製剤と呼ばれるよく効く片頭痛の特効薬が発売され、これでかなりコントロールしやすくなりましたが、高頻度に頭痛が起こる場合は依然苦労を強いられていました。
90年代後半から少しずつ普及しだしていた「ミグシス(一般名:ロメリジン塩酸塩)」という片頭痛の予防薬があります。これは毎日2回飲むタイプの予防薬で、飲んでいれば片頭痛が起こりにくくなる場合があります。しかし、全員に効果があるわけではなく、あっても痛みが少し和らぐ程度であることも多かったのですが、2010年代に入り、「デパケン(バルプロ酸ナトリウム)」「インデラル(プロプラノロール塩酸塩)」という予防薬が保険診療で処方できるようになりました。前者はもともとてんかんの薬、後者は高血圧や不整脈に使われる薬なのですが片頭痛の予防効果もあるのです。これら3種の予防薬は1種では効果がなくても2種組み合わせれば有効になる場合もあります。当院での処方も1種ではなく2種を組み合わせることの方が多いといえます。
ところが、2種を組み合わせ、さらにその組み合わせの方法をいろいろと試してみてもさほど効果が出ない場合もあり(3種併用は当院では実施していません)、依然生活に支障がある人もいます。他にも、抗うつ薬のトリプタノール(アミトリプチリン塩酸塩)や抗てんかん薬のトピナ(トピラマート)といった片頭痛の予防効果があるとされる薬はあります。トピナは残念ながら保険適用がなく現実的には使用できません。それだけを自費で処方すれば「混合診療」となり、片頭痛の治療としてそれまで保険で処方されていた薬もすべて自費診療となるからです。
抗体医薬の登場
新型コロナウイルスが猛威を振るっていた2021年、画期的な注射薬が立て続けに3種類発売されました。「エムガルティ(ガルカネズマブ)」「アジョビ(フレマネズマブ)」「アイモビーグ(エレヌマブ)」という名のまったく新しいこれらの薬はCGRP関連薬と呼ばれるいわゆる「抗体医薬」です。抗体医薬とはイメージでいえば、体内に存在する特定の標的にぴったりと結合することにより、その標的の機能を奪うような薬です。がんや(関節リウマチなどの)自己免疫疾患の領域でよく使われる薬が、片頭痛の領域にも登場したというわけです。
CGRP関連薬の仕組みを簡単に説明しておきましょう。まず、片頭痛は脳神経の一種である三叉(さんさ)神経がCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)と呼ばれる物質を放出することから始まると考えられています。放出されたCGRPが脳内の血管に取り込まれると、その血管が拡張します。すると、血管内のたんぱく質が血管外に漏れ出し、これが脳に存在する神経に「炎症」を起こし、この炎症が頭痛を引き起こします。
CGRP関連薬のうち、エムガルティとアジョビはCGRPに直接くっついて、CGRPが血管に近づけないようにします。他方、アイモビーグは血管の表面に存在する「CGRP受容体」にくっついて、CGRPが血管内に取り込まれないようにします。これらの注射薬はどこの医療機関でも処方しているわけではなく、当院も実施していません。当院ではこれら注射薬が適していると思われる患者さんに対して説明をし、希望されれば実施している医療機関を紹介するようにしています。
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ところが、当初予想していたほどには希望する患者さんが増えませんでした。その理由は主に二つあって、一つは「注射への抵抗」です。最近は、セマグルチド(オゼンピック、ウゴービ)、あるいはチルゼパチド(マンジャロ、ゼップバウンド)といったやせ薬(GLP-1受容体作動薬)の普及で自己注射が随分と一般化しましたが、それでも注射薬に対して抵抗がある人は今も少なくないのかもしれません。もう一つの理由は費用です。注射は月に1回、または3カ月に1回で、費用は月あたり3割負担で約13,000円と、それなりの金額になります。
飲み薬でさらに普及へ?
そんななか、今年(2026年)になり「CGRP関連薬の飲み薬」が2種類登場しました。別名「ゲパント薬」と呼ばれるこれら飲み薬は、イメージで言えば上述のアイモビーグに少し似ています。アイモビーグと同様、CGRP受容体にCGRPがくっつかないようにするからです。アイモビーグがCGRP受容体の“全体”に覆いかぶさるのに対し、ゲパント薬はCGRP受容体の一部に潜り込んで、CGRPが侵入できないようにするようなイメージです。2種のゲパント薬は使い方が異なり、下記のようになります。
#1 ナルティーク(リメゲパント):2日に1錠飲むタイプの予防薬。頭痛発症時にトリプタン製剤のように内服することも可能。薬価は1錠2,923.2円(3割負担で1錠877円、予防で使えば1月あたり約877円×15日=13,154円)
#2 アクイプタ(アトゲパント):1日1回内服するタイプの予防薬。薬価1,461.6円(3割負担で1錠約438円、月13,154円)
薬価は市場原理には連動せずに、厚生労働省が諸事情に鑑みて価格を設定します。これら2種とも毎月にかかる費用はほぼ同じで13,000円程度。つまり、3種の注射薬、2種の内服薬のどれを使おうが、ほとんど変わらない価格に設定されているのです。こうなると、これら2種のゲパント薬のどちらを使うかについては、「2日に1錠」と「毎日1錠」のどちらが飲みやすいか、という視点で選ぶことになるのかもしれません。
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おそらく日本の片頭痛の治療の歴史において、2026年は重要な年として記録されるでしょう。片頭痛の歴史を改めてひも解くと、00年代に画期的な治療薬のトリプタン薬が登場し、10年代にいくつかの薬が予防薬として処方できるようになったけれど万人に効くわけではなかった、21年に注射薬のCGRP関連薬が登場したが普及度は大きくなかった。そして26年、ついに内服ゲパント薬が登場し従来の予防薬では効かなかった重度の片頭痛にも期待できるようになった、となります。次の転換点は内服ゲパント薬の後発品が登場すると思われる30年代後半でしょうか。ですが、それを待つまでに内服ゲパント薬は普及していくのではないかと私はみています。片頭痛の苦痛には耐えがたいものがあるからです。実際、当院ではすでに少しずつ内服ゲパント薬を希望する人が増えてきています。
結局……片頭痛治療に最も大切なのは
最後に、月並みでおもしろくないけれど最も大切なことを述べておきます。今回は薬の視点から片頭痛を取り上げましたが、過去20年にわたり大勢の片頭痛を診てきた私の経験からみて、薬よりもはるかに大切なのが「規則正しい生活」です。特に若い人に対してはこのようなことを助言するのはちょっと心苦しいのですが、「休日も含めて毎日同じ時間に起きて、昼寝をしない(しても10分以内)。睡眠時間は短すぎても長すぎてもNG」がとても大事です。実際、「規則正しい生活」を実践するだけで(といってもこれが大変なのですが)、片頭痛の頻度が大きく減少したり、痛みの程度が軽度になったり、という声は非常に多く寄せられます。
=ゲッティ
反対に「絶対にやってはいけないこと」は、前回述べた「市販の薬に安易に手を出すこと」です。前回の繰り返しになりますが、日本の薬局で販売されている鎮痛薬にはブロモバレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素といった「危険な成分」が使われているものが少なくありません。これらには手を出してはいけません。私はこれまで薬剤師に期待してきましたが、薬局でこれら「危険な成分」の説明をしている薬剤師をいまだに一人も知りません。薬局の薬剤師が安全性の説明を怠るのなら、自分の身は自分で守るしかありません。総合診療を実践する当院では、過去20年間にわたり片頭痛を含むさまざまな頭痛の治療をおこなっていますが、いつの頃からか頭痛そのものよりも「鎮痛薬の依存症を治したい」という要望が増えてきています。
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谷口恭
谷口医院院長
たにぐち・やすし 1991年関西学院大社会学部卒、2002年大阪市立大医学部卒。タイのエイズポスピスでのボランティアなどを経て、07年クリニック開設。大阪公立大非常勤講師。プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。