「マンジャロで痩せる!」……その裏に潜む大きなリスク。専門医が明かす「自費マンジャロ問題」の本質
2026/06/17無料会員記事
2型糖尿病の治療薬として承認されている「マンジャロ」=大阪市で2026年5月、松原隼斗撮影
目次
米国の製薬大手「イーライリリー」が開発した「マンジャロ(一般名:チルゼパチド)」が「ダイエット薬」として一躍、脚光を浴びています。
しかし、本来は食事制限や運動療法が効かない2型糖尿病の治療薬として承認された薬で、扱いには極めて慎重にならなければなりません。
つまり、単純にダイエット用に使うのは本来の治療目的と異なるのです。
ただ、そのように紹介するSNSの投稿や広告があっという間に広がり、個人間売買も横行。無許可販売で書類送検(医薬品医療機器法違反容疑)される事件まで起き、上野賢一郎厚生労働相が今月5日、「個人間売買は違法。SNSなども含めた注意喚起を強化し、法違反に対しては厳正に対処していきたい」と記者会見で話す事態となっています。
このマンジャロの「適用外使用」に、SNSの「X」などで積極的に異を唱えているのが、糖尿病専門医の大坂貴史さん。専門医の視点から、安易に「やせ薬」として使うことのリスクと、今起きているもろもろの問題点について、わかりやすく解説してくれました。
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近年、SNSやインターネットを中心に「劇的に痩せる」「究極のダイエット薬」として、ある医療用の注射薬が大きな注目を集めています。
その名は「マンジャロ」。
本来は糖尿病の治療薬であるこの薬が、なぜ今「ダイエット目的で使う自費診療の薬」として問題視されているのでしょうか。マンジャロの仕組みや流行の背景、そして安易な個人利用に潜む「本当の危険性」をぜひとも知っていただきたいです。
「自費マンジャロ問題」
この問題がSNSなどで大きく炎上し、地上波でも話題となったきっかけは、ある配信番組で「マンジャロを使ったオンラインダイエットサービス」が宣伝されたことでした。
番組内では「実際に使ってダイエットに成功した」という体験談が紹介され、マンジャロを絶賛する内容が放送されました。
=ゲッティ
しかし、この番組に医療関係者や専門家から「そもそもダイエット目的で安易にマンジャロを使うべきではない」「健康被害のリスクが高く、非常に危険だ」との批判が殺到し、大きな議論を巻き起こすことになったのです。
また、マンジャロを許可なくインターネットで売買したとして3人が書類送検された事案までありました。これは重大な問題だと考えます。
マンジャロが劇的に「痩せる仕組み」
「マンジャロはダイエットの薬だと思っていた」
そう思う人が多いかもしれません。実際、糖尿病の患者さんに、体重管理の目的を兼ねて処方されることは一般的です。
マンジャロが体重を落とす仕組みは、大きく分けて次の二つです。
①胃の動きをゆっくりにする
→食べたものの腹持ちが良くなり、少量で満足できるようになります。
②脳に働きかけて食欲を落とす
→食欲そのものが抑えられるため、間食やお酒の量が自然と減っていきます。
それでは、なぜここまで流行しているのでしょうか?
数ある肥満治療、ダイエット用の薬(GLP-1受容体作動薬など)の中でも、マンジャロがとりわけ大きな注目を集めている理由は、「効果の早さ」と「使いやすさ」という2点にあります。
①効果が出るのが圧倒的に早い
→注射したその日から食欲が落ちるなど、効果を実感するスピードが非常に早いです。
②注射の手間がかからない
→インスリン注射のように毎回針を自分で取り付ける必要がなく、ペン型の器具1本で1回きりで完結するため、利便性が極めて高いのが特徴です。
=ゲッティ
さらに、他の糖尿病薬に比べて「血糖値が下がりすぎる(低血糖)」という副作用が起きにくく、比較的安全性が高い薬であることも、広まりやすさに拍車をかけました。
本当の問題は「処方のされかた」
ここで勘違いしてはならないのは、「マンジャロという薬そのものが危険で悪いわけではない」ということです。
問題なのは、その「使い方」と「流通の仕組み」にあります。
現在の自費診療、オンライン処方の問題点は主に以下の三つです。
①個人差が激しく「適切な量」の調節が不可欠
→マンジャロは人によって効果の出方が全く異なります。「全く食欲が変わらない」という人もいれば、「吐き気や気持ち悪さで耐えられない」という人もいます。
そのため、本来は医師が患者さんの状態を細かく診察し、「効きすぎているから量を減らそう」「効果が出ないから少し増やそう」と微妙なコントロールを行う必要があります。
②オンライン処方の「フォロー体制のなさ」
→現在、ネット上の安価なクリニックでは、十分な医師の診察やアフターフォローがないまま、オンラインで簡単にマンジャロが手に入ってしまいます。
ピルのように一律の量で飲み続けられる薬とは違い、マンジャロは体調に合わせた「量の調節」が「命綱」です。それを無視して自己判断で使い続けると、健康を大きく害するリスクがあるのです。
③急激なダイエットによる健康被害
→専門家の指導なしに強制的に食べられない状態を作ってしまうと、以下のような「急激に痩せることによる副反応」が起こりやすくなります。
▽筋肉量や骨密度の低下……食事制限だけで 体重が落ちるため、体の大事な筋肉や骨が衰えてしまいます。
▽抜け毛(はげ・薄毛)……栄養不足により髪の毛に影響が出ます。
▽胆石のリスク上昇……急激な減量は、胆のうに石がたまる病気を引き起こしやすくなります。
マンジャロの正しい使い方と「やめ時」
マンジャロはあくまで「食欲を抑えて、食事の量を減らす習慣をサポートする」ためのものです。本当に大事なのは、薬で食欲が落ちている間に「適切な食事」や「運動」の習慣を身につけることです。
=ゲッティ
習慣が変わらないまま、ただ体重が落ちたからといって薬をやめてしまえば、当然食欲は元に戻り、あっという間にリバウンドしてしまいます。「つらい食事制限をカバーしてくれている間に、自分の生活習慣を整える。それができて初めて薬を卒業できる」というのが、本来の正しい立ち位置なのです。
「痩せたい……」 そんなとき行くべき場所
もし、あなたが「どうしても痩せられない」と悩んでいるのなら、ネットで安易にマンジャロを購入するのは避けるべきです。
実は、いくら努力しても痩せられない背景には、隠れたホルモンの異常や、自覚症状のない糖尿病、高血圧などの病気が隠れているケースもあります。そのため、まずは信頼できる医療機関でしっかりと検査を受けることがベストです。
どうしても医療の力を借りたい場合は、安易に「マンジャロ」を格安で売っているような場所ではなく、食事や運動の指導チーム(管理栄養士やトレーナーなど)がしっかり在籍している「肥満外来(肥満専門の外来)」に相談することをおすすめします。
また、自由診療で肥満治療を受ける場合は、糖尿病用の「マンジャロ」ではなく、肥満症治療薬として承認、管理されている「ゼップバウンド」や「ウゴービ」などを適切に扱っている、丁寧なクリニックを選ぶことが一つの目安となります。
薬そのものは医療の進歩が生んだ素晴らしいツールです。だからこそ、専門家の正しい指導のもとで、安全に健康を取り戻すために使いましょう。
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大坂貴史
綾部市立病院内分泌・糖尿病内科部長
おおさか・たかふみ 京都府立医大卒業後、京都南病院と京都第二赤十字病院を経て、同大大学院で医学博士を取得。2018年から現職。同大大学院客員講師。糖尿病専門医・指導医。糖尿病と筋肉、糖尿病運動療法が専門。