脳のエネルギー源、ケトン体に注目! MCTやココナツオイルを味方に
2026/06/20無料会員記事
=ゲッティ
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「ケトン体」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。糖の代わりになるエネルギー源の一つですが、以前はむしろ良くないイメージを持たれていました。しかし近年は、ケトン体が健康に役立つという研究報告が増えており、アルツハイマー型認知症にとっても例外ではありません。ケトン体の底力と、簡単・安全に増やすコツをお伝えします。
悪者から一転、助っ人へ
私たちは普段、糖(ブドウ糖)をエネルギー源として生きています。しかし、食べ物が容易に手に入らない場合に備えて、体内の脂肪をエネルギー源として用いる仕組みが備わっています。この時、主に肝臓で作られる物質がケトン体です。ケトン体にはβ-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンの3種類があり、このうちβ-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸が脳や心臓、筋肉などの臓器のエネルギー源として利用されます。
実はかつては、ケトン体は悪者扱いされていました。糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)といって、血中にケトン体が過剰に蓄積し、体液が酸性に傾く状態を引き起こし、命に関わる病態につながるとみなされていたからです。
しかし研究により、ケトン体のイメージは大きく変わってきました。1920年代には、体内のケトン体を増やすケトン食がてんかん治療に有効であることが発見され、ケトン体の有効性が初めて認識されています。さらに2000年以降、ケトン体が単なるエネルギー源ではなく、さまざまな健康に役立つ作用を持つことが報告されるようになりました。現在、複数の病気の治療に応用すべく、研究が続けられています。
認知症の大半を占めるアルツハイマー型認知症とも無関係ではありません。糖を脳に取り込む能力が低下し、脳細胞が慢性的なエネルギー不足に陥るアルツハイマー病にとって、糖の代わりとなるエネルギー源を安定的に供給することは重要なポイントになります。糖のほかに脳のエネルギー源になるものとしては脂質やたんぱく質がありますが、中でもケトン体は非常に重要な物質であると考えられているのです。
飢餓状態や糖質制限中に作られる
普段、私たちの体は食事から得た糖分をエネルギーとして使っています。しかし、飢餓状態や厳格な糖質制限をした時のような糖分不足の状態では、脂肪がエネルギー源として分解され、ケトン体が作られるようになります。
健康な人の場合、血液中のケトン体の濃度は一定以上には上がりません。体内で絶妙なブレーキが働くためです。ケトン体が増えると、血糖値を下げるインスリンというホルモンの分泌が刺激され、逆にエネルギーを合成するグルカゴンというホルモンが抑えられます。この仕組みにより、ケトン体が作られすぎるのを防いでいるのです。
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しかし糖尿病は、インスリンの分泌が減ったり、働きが悪くなったりする病気です。インスリンは血液中の糖を細胞に取り込ませる働きがあるため、インスリンが十分に作用しない状態では血液中に糖が豊富に存在しても細胞が糖を利用できず、細胞はエネルギー不足の状態が続きます。その結果、体は飢餓状態だと誤って認識し、グルカゴンが分泌されるのです。すると、エネルギー不足を補うために脂肪が分解され、さらにケトン体の産生が増えていきます。
前述のようにインスリンが増えるとケトン体の合成は減るのですが、糖尿病ではインスリンが増えないため、ケトン体の合成を止めることができません。まるで車のブレーキが壊れているような状態です。
このように糖尿病の方がインスリン不足のままケトン体を過剰に増やしてしまうと、先述したDKAという命に関わる危険な状態に陥るため、自己判断での取り組みは絶対に避ける必要があります。
ケトン体代謝が230%アップした理由
もともとケトン体は肝臓で作られ、血液を通じて全身に運ばれ、エネルギー源として使われています。ケトン体の主要成分であるβ-ヒドロキシ酪酸は神経疾患や心血管疾患、腎疾患、代謝疾患など幅広い領域で注目されており、認知機能のサポートや心機能への関与、抗炎症作用、体脂肪や糖代謝への影響など、有益な作用が数多く報告されています。
特に私が注目しているのは認知症に対する作用です。まず、β-ヒドロキシ酪酸は抗炎症作用などを介した神経保護作用を発揮します。アルツハイマー病の動物実験では、脳内の免疫細胞の活性化が抑制されたり、脳のゴミの蓄積が軽減されたりといった結果が得られています。
さらに細胞内のエネルギー産生器官であるミトコンドリアの機能を改善する、神経細胞の回復を促す遺伝子の働きを調整するといった作用も報告されており、複数のメカニズムによって認知症の予防に役立つ可能性が期待されています。実際、後述するMCTオイルやケトン体摂取による認知機能への影響を調べた複数の研究を解析した論文では、認知機能の小〜中程度の有意な改善が報告されています。この論文には健康な人だけでなく、認知症の患者さんも含まれていました。
また、軽度認知障害(MCI)の患者さん52人を対象に、1日30gのMCTオイルを摂取したグループとプラセボを摂取したグループとを比較した研究では、MCTオイルを摂取したグループで脳のケトン代謝が230%増加していました。そして、認知機能のうちエピソード記憶(過去の出来事の記憶)や言語機能、実行機能(計画を立てて実行する能力)、処理速度において、プラセボと比較して有意な向上が見られました。この結果は、ブドウ糖を使えず「ガス欠状態」に陥っていた脳細胞に、新たなエネルギー源としてケトン体が供給されたことにより、認知機能が改善した可能性を示唆しています。
断食、サプリ…ケトン体を増やす方法
では、どのようにすればケトン体を増やすことができるのでしょうか。その方法をいくつかご紹介しましょう。
①ケトン食(ケトジェニックダイエット)
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古くから断食がてんかん発作を減少させることが知られており、19世紀末から、低炭水化物・高脂肪食の医学的効果に関する報告が始まりました。古典的なケトン食は、脂質とたんぱく質・炭水化物の合計のエネルギー比が4:1であり、ほぼ油で構成された食事になります。抗てんかん薬が登場してからはケトン食が治療に用いられることは少なくなりましたが、現在でも薬剤抵抗性てんかん、特に小児において世界中で使用されています。
しかしながら古典的ケトン食ではビタミンB1、葉酸、カルシウム、マグネシウム、鉄、ヨウ素、リンなどの栄養素が不足しがちであり、サプリメントを使用したとしても十分に補充することが困難になります。また、古典的ケトン食の副作用として、便秘や下痢などの消化器症状や疲労感、頭痛、吐き気、脱力感、口臭、脂質異常症、腎結石、骨粗鬆(そしょう)症などが報告されており、実施の際には医療の専門家による十分な管理が必要です。
②間欠的ファスティング(断食)
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一定の期間、空腹時間を意図的に設ける方法で、1日おきに断食を行う「隔日断食」、週5日は通常の食事を取り、残りの2日間はカロリーを大幅に制限する「5:2間欠的ファスティング」、1日のうちに一定時間食事をしない時間を作る「時間制限食」などが広く知られています。その優劣は明らかでなく、どの方法が適切かは個人差があります。一般的に副作用は少ないと言われていますが、高齢者や持病がある場合などは医師の指示に従いましょう。
私がお勧めするのは、夕食から翌日の朝食まで12時間程度の空腹時間を設ける時間制限食です。毎日食事ができるので習慣化しやすく、他の方法と比べて続けやすいと言えます。
③MCTオイル・ココナツオイル
MCTオイルのMCTとは、Medium Chain Triglycerideの頭文字を取ったもので、日本語に訳すと中鎖脂肪酸となります。MCTオイルは中鎖脂肪酸100%のオイルであり、ココナツオイルは中鎖脂肪酸が主成分の油です。中鎖脂肪酸は他の油よりも速やかに吸収されるため、体に蓄積されずに肝臓に達し、大部分がケトン体に変換されます。
ただし、糖質を摂取するとケトン体の合成が減少するので、MCTオイルを摂取すればあとは何を食べても良いというわけではありません。健康な成人女性を対象にした実験では、MCTオイル摂取量に対して糖質の摂取量が3倍を超えるとケトン体の合成が明らかに抑えられることが分かっています。
MCTオイルは無味無臭で摂取しやすい一方、加熱すると煙が出たり、泡立って引火したりするので危険です。調理済みの料理にかけるか、飲み物に混ぜるのが良いでしょう。ココナツオイルは独特の香りがありますが、加熱料理にも使えるのが利点です。しかし、効率的にケトン体を増やしたい場合は、中鎖脂肪酸含有量が多いMCTオイルの方が適していると考えられます。慣れないうちは胸焼け、下痢などの消化器症状が出やすいので、試したい方は小さじ1杯程度から始めて様子を見ながら、少しずつ増やしてみてください。
④ケトン体サプリ
10年ほど前から、人工的に製造されたケトン体、もしくはケトン体のもとになる成分のサプリメントが市販されるようになりました。これらはケトン体の構成成分そのものを摂取することになるので、より血中のケトン体を増やしやすいと考えられます。とはいえ、糖質をケトン体と同時に摂取すると、ケトン体のピーク濃度は33%低下したというデータがあるので、ケトン体を効果的に増やしたいなら、やはり糖質は控えめにした方が良さそうです。
難点としては、ケトン体そのままだと酸味や苦味が強いこと、下痢や吐き気、胃痛などの消化器症状が出る場合があることなどが挙げられます。
⑤運動
認知症を予防する運動も=東京都新宿区で2022年4月22日
空腹状態で運動をすることにより、さらにケトン体を増やしやすくなります。中〜高強度の持久運動を30〜60分以上続けると、ケトン体が上がりやすいとされているのです。ただし空腹状態での激しい運動は低血糖症状などのリスクがあり、無理は禁物です。特に糖尿病や心疾患がある人には推奨しません。
意識的に空腹時間を確保する
繰り返しになりますが、ケトン体は血液中に糖が少ない時に脂肪を原料に作られるエネルギー源です。健康に有益な効果がさまざま報告されており、認知機能の維持や認知症の予防の観点からも、今後の研究や応用が大いに期待されています。
しかし普通の食事をしているだけではケトン体を増やすことは難しく、ケトジェニックダイエットや断食などを行う必要があります。MCTオイルやサプリメントの活用でケトン体を増やすことも可能ですが、消化器症状などの副作用に注意する必要があります。
まずは甘いものをやめる、意識的に空腹時間を確保してみるといったところからケトン体習慣を始めてみてはいかがでしょうか。
※本記事に掲載されている情報は、執筆・監修時点における医学的知見や公表された研究データに基づき、一般的な情報提供および啓発を目的として作成されたものです。特定の効果・効能を保証するものではありません。
実際の健康状態の評価、診断、および治療については、必ず医師などの専門医療機関にご相談ください。本記事の情報を基に読者の方が独自に行われた取り組みによって生じた健康上のトラブルや不利益について、当方(著者・監修者および運営元)は一切の責任を負いかねます。特に糖尿病や心疾患などの持病がある方は、食事法や運動を開始する前に必ず主治医にご相談ください。
<参考文献>
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・Frenser,M.,Fobker,M.,Feuerborn,R.A.,Marquardt,T.& Fischer,T.Effect of glucose on medium chain triglyceride induced ketosis in healthy adults in a randomized,double-blind,controlled study. Sci.Rep.16,(2026).
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今野裕之
ブレインケアクリニック名誉院長
こんの・ひろゆき 2001年日本大医学部卒。15年順天堂大大学院修了。日大板橋病院などを経て現職。一般社団法人・日本ブレインケア認知症予防研究所所長。精神科専門医。近著に「ボケたくなければ『寝る前3時間は食べない』から始めよう」